「この患者さんは自宅に戻れるのか、施設が必要か、転院が必要か」——退院支援の中でも、この見立ては特に重要な判断です。ただし、どんなにアセスメントを丁寧にしても、最初に確認すべきは本人と家族の気持ちです。

まず、本人と家族の意向を聞く

ADL表や医療処置の状況から、ある程度の方向性は見えてきます。ただ、それはあくまで「医療者側の見立て」に過ぎません。

「在宅は難しそう」と感じていても、本人や家族が在宅を強く希望されることがあります。そのときは、その気持ちを尊重し、できる可能性を一緒に探すことを基本にしています。もちろん、どう考えても医療的に困難と判断される場合は別です。しかしそうでなければ、「できるかどうか」より先に「どうしたいか」を聞くことが出発点です。

💡 可能であれば医師にも話し合いに参加してもらう
医師がいるのといないのとでは、場の重みがまったく違います。本人や家族にとって、医療者と直接話せる機会はとても貴重です。話し合いの場は、決め事をするだけでなく、気持ちを落ち着けてもらう時間でもあります。「支援者がいますよ」「一人で抱え込まなくていいですよ」——その安心感を伝えることが、信頼関係にもつながります。

ステップ①:「今の状態」を一覧表で見える化する

本人・家族の意向を確認したうえで、現在の状態を整理します。ADL表と医療処置一覧表を使って現状を見える化することで、関係者全員が同じ情報をもとに話し合えるようになります。

医療処置面

  • 現在どんな医療処置が入っているか
  • 酸素療法はあるか、退院までに外せる見込みはあるか
  • 経管栄養か、口から食べられているか
  • 吸引の必要性(頻度・時間帯)
  • IVH(中心静脈栄養)の有無

生活動作面(ADL)

  • ベッド上での生活か、車椅子に乗れているか
  • 移乗・移動はどの程度介助が必要か
  • リハビリはどこまで進んでいるか、今後の回復見込みは
  • 食事・排泄・入浴の介助量

疾患・病状

  • 病名・病状(退院先を考えるうえで最も重要な情報)
  • 繰り返し入院が予測される疾患かどうか
  • 今後の医療的なニーズの見通し

ステップ②:退院後の課題を分析する

ADL表をもとに、退院後の生活でどこに困難が生じるかを整理します。

  • 自宅の環境(段差・トイレ・介護スペースなど)は対応できるか
  • 家族の介護力はあるか(家族自身の状況も含めて)
  • 医療処置を退院先で続けられるか
  • 通所サービス・訪問サービスでカバーできる範囲はどこまでか
  • 訪問診療・かかりつけ医との連携は整っているか

ステップ③:退院先の方向性を判断する

課題分析と本人・家族の意向を合わせて、方向性を判断します。

方向性 主な選択肢
在宅復帰 自宅+訪問サービス・通所サービス等
施設入所 特養・老健・グループホーム・有料老人ホーム等
転院 療養型病院・回復期リハビリ病院・精神科病院等

ステップ④:施設の介護度別要件と一覧

施設は介護度によって入れる場所が変わります。以下は厚生労働省の資料に基づく目安です。

📎 介護保険・老人福祉法等に基づく施設
施設名 根拠法 介護度の目安 主な特徴
特別養護老人ホーム(特養) 介護保険法・老人福祉法 原則要介護3以上
(要介護1・2は特例あり)
24時間介護が必要な方の生活施設
介護老人保健施設(老健) 介護保険法 要介護1以上 リハビリ・在宅復帰を目指す中間施設
介護医療院 介護保険法 要介護1以上 長期療養・医療管理が必要な方向け
グループホーム 介護保険法 要支援2または要介護1以上
+認知症診断必須
少人数での共同生活・認知症専門ケア
介護付き有料老人ホーム(特定施設) 介護保険法・老人福祉法 施設により異なる 介護サービスを施設が直接提供
住宅型有料老人ホーム 老人福祉法 施設により異なる 住まいの提供。介護は外部サービスを利用
健康型有料老人ホーム 老人福祉法 自立の方のみ 介護が必要になると退去が必要
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) 高齢者住まい法 原則60歳以上・介護度制限なし 安否確認・生活相談付きの賃貸住宅
軽費老人ホーム(ケアハウス) 社会福祉法・老人福祉法 60歳以上・介護度制限なし(施設による) 低廉な費用で生活支援を受けられる施設
養護老人ホーム 老人福祉法 65歳以上・介護度制限なし
(概ね自立。環境上・経済的理由が条件)
市区町村による措置施設。自立支援・社会復帰が目的
生活支援ハウス(高齢者生活福祉センター) 老人福祉法 原則60歳以上・介護度制限なし
(ひとり暮らし・独立生活に不安がある方)
居住・相談・介護サービス連携・地域交流の機能を持つ
📎 障害者総合支援法に基づく住まい・入所系施設(別枠)
施設・サービス名 主な対象・要件 主な特徴
障害者支援施設(入所施設) 障害支援区分4以上(50歳以上は区分3以上) 夜間の介護+日中の生活介護を提供する入所施設
共同生活援助・介護サービス包括型(GH) 常時介護が必要な障害者 GHが介護サービスを直接提供
共同生活援助・外部サービス利用型(GH) 比較的支援が少ない障害者 生活支援が中心。介護は外部サービスを利用
共同生活援助・日中サービス支援型(GH) 重度障害者・日中活動サービス利用が困難な方 24時間支援体制。近年、医療に強い施設も増加
医療型障害者支援施設 常時医療が必要な障害者 医療的ケアを提供する入所施設
療養介護 区分6で人工呼吸器装着者など 病院等での長期入院+常時介護
福祉ホーム 住居確保が困難な障害者 低額で居住空間を提供
宿泊型自立訓練 地域生活・就労を目指す障害者 原則1年間。自立生活スキルの訓練と宿泊支援
短期入所・医療型(ショートステイ) 医療的ケアが必要な障害者・重症心身障害児者 医療ケア対応の短期入所

※ 障害者施設は障害者総合支援法に基づき、高齢者施設とは別の制度体系です。要件の詳細は厚生労働省の資料または各窓口にてご確認ください。

⚠️ 施設の要件は施設・地域によって異なります。最新の要件は厚生労働省の資料または各施設・市区町村窓口にてご確認ください。

老健は「通過点」として考える

介護老人保健施設(老健)は、病院と在宅・施設の中間に位置するリハビリ施設です。在宅復帰を目標に、原則3〜6か月単位でリハビリを行います。老健への退院を検討するときには、その先を見据えることが重要です。

  • リハビリを経て在宅に戻るのか
  • リハビリ後に施設(特養など)へ移るのか
  • 医療的なニーズが高く、療養型病院への移行が必要になるか
💡 老健はゴールではなく、次のステップへの橋渡しです。入所時から「その後」を見据えた調整を始めておくことが大切です。

医療処置の内容が退院先を左右する

医療処置の有無と種類は、退院先の選択に大きく影響します。

医療処置 在宅 施設(特養・老健等) 療養型病院
酸素療法 対応可能なことが多い 対応できる施設あり
吸引(日中のみ) 家族・訪問看護で対応 施設による
吸引(夜間含む) 困難なことが多い 難しい傾向
IVH(中心静脈栄養) 訪問看護で対応可能な場合も 困難なことが多い
重度の医療処置全般 困難 困難
💡 特に夜間の吸引は、在宅・施設ともに対応が難しいケースが多くあります。酸素は対応できても吸引は対応できない施設も少なくありません。ただし、医療に強い施設もあるため、地域の社会資源をよく知ることが大切です。

疾患の性質上、繰り返し入院が予測される場合も療養型病院を検討します。

在宅を希望される場合は、誰がいつ医療処置を行うかを入院中に明確にしておくことが重要です。家族が担う場合は入院中に手技を習得してもらい、訪問看護が担う場合は退院前から関わってもらって引き継ぎを行います。

⚠️ 訪問看護の提供体制には地域差があります。地域の資源を把握したうえで調整することが大切です。

話し合い当日までの「お膳立て」が鍵

退院に向けた話し合いをスムーズに進めるために、事前の準備(お膳立て)が非常に重要です。

💡 話し合い当日は「確認と決定」だけになるよう、事前にすべて整えておく。
  • 1
    ケアマネージャー・相談支援専門員と事前に情報共有する 方向性をすり合わせておき、当日の議論が少なくなるようにする。
  • 2
    サービス事業所に事前に状況を伝え、受け入れ確認をとっておく 当日に「事業所が未確定」という状態を避ける。
  • 3
    当日の論点を絞っておく 話し合いで「決めること」だけが残るように整理する。

特に急な退院・新規サービスの立ち上げ・看取りなど時間的な余裕がない場面では、このお膳立てができているかどうかで、話し合いの質とスピードがまったく変わります。

ケーススタディ:癌末期・自宅看取りへの調整

癌末期で寝たきり、酸素療法・吸引などの医療処置があり、経口摂取も難しくなってきていた患者さんのケースです。

病棟看護師から「ご家族は自宅は難しそうとおっしゃっている」という情報は入っていましたが、正式な話し合いはまだでした。ケアマネージャーも交えた正式な場を設けたところ、遠方から駆けつけた娘さんが「自宅で看取りたい」と強く希望されました。

家族内で意見の相違が生じたため、「一晩、家族で話し合ってきてください」とお伝えしました。翌日、「在宅で看取りたい」という返事がありました。

医療者側の見立てでは容易ではないケースでしたが、家族全員の意向を尊重し、支援する側に立って動くことにしました。娘さんは「すぐに連れて帰りたい」という気持ちが強く、新規サービス事業所の調整も含め、迅速に動きました。

💡 再度の話し合い前のお膳立て:
・ケアマネージャーとの事前の情報共有・方向性のすり合わせ
・事業所への事前連絡・受け入れ確認
・当日の論点整理(決め事だけが残るように)

また、看取りに慣れていないケアマネージャーには「私たちも一緒に支援します」と伝え、安心して動いてもらえるようにしました。