🌿 ACP(人生会議)の進め方
患者・家族と話し合うための実践ガイド
退院支援・在宅ケアの場でACPをどう実践するか。対話の進め方・記録・多職種での共有・困難なケースへの対応を解説します。
ACPとは何か――専門職として押さえておくこと
ACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング)は、将来の意思決定能力の低下に備えて、本人の価値観・意向・希望を繰り返し確認し、医療・ケアチームや家族と共有するプロセスです。
「延命治療の意向確認」と誤解されることがありますが、ACPは特定の治療選択を迫るものではありません。「その人が何を大切にして生きているか」を出発点にした継続的な対話であることを念頭に置いてください。
📌 ACPの3つの柱
- 本人の価値観・意向の把握:病状や治療への希望だけでなく、「何を大切に生きてきたか」「どんな生活を送りたいか」を丁寧に聞く
- 繰り返しの対話:一度決めたら終わりではない。病状や気持ちの変化に応じて話し合いを続ける
- チームでの共有:話し合った内容を記録し、関わる専門職全員で共有することが「もしもの時」の支えになる
いつACPを始めるか
「重篤になってから」では対話が難しくなることが多く、早期からの介入が重要です。退院支援の場では以下のタイミングが自然な入口になります。
🏥 入院時・スクリーニング時
- 退院後の療養場所の希望を確認する
- 「在宅で過ごしたいか」「施設を考えているか」を聞く
- キーパーソン・代理意思決定者を把握する
📋 退院支援カンファレンス時
- 退院後の生活の希望を多職種で共有する
- 医療処置の継続・中止の方針を確認する
- 本人・家族の不安・疑問を引き出す
🏠 在宅・施設移行後
- 状態が安定したタイミングで改めて確認する
- ケアプランの更新時に価値観・意向を再確認する
- 急変時の対応方針(DNAR等)を共有しておく
⚠️ 病状が進んだとき
- 治療方針の変更・緩和ケア移行時
- 本人の意思確認が難しくなる前に
- 「今の気持ち」を改めて確認する機会にする
対話の進め方――聞き方・言葉の選び方
ACPの対話は「聞き出す」ではなく「一緒に考える」姿勢が基本です。以下に、実際の場面で使いやすい問いかけの例を示します。
🔹 価値観・大切にしていることを引き出す
🔹 療養の場所・生活の希望を確認する
🔹 治療の意向・延命処置について
⚠️ 「決めてください」は禁句
「延命治療はどうしますか?」「胃ろうはしますか?」と単刀直入に聞くのはACPではありません。本人が「決めなければならない」と追い詰められる対話は逆効果です。まず価値観・生活の希望を聞き、そこから自然に話を広げていくことが大切です。
困難なケースへの対応
🔸 認知症があり、本人の意思確認が難しい
- 認知症があっても、軽度〜中等度であれば意思表示できることが多い。状態の良いタイミングを選んで話す
- 「その人らしさ」を知っている家族・旧知の人に、以前の言動・価値観・口癖を聞く
- 過去の発言・行動から「この人ならどう判断するか」を推定する(推定意思の確認)
- 施設・訪問看護等の長期的な関わりのある支援者の情報も重要
🔸 家族間で意見が分かれている
- 家族全員が「本人のために」と思っていることを最初に確認し、対立を緩和する
- 「本人がどう言っていたか」に立ち返ることで、家族の個人的な意見と本人の意向を分けて考える
- 全員を一度に集めるのではなく、個別に話を聞いてから場を整えるほうがうまくいくことがある
- 結論を急がず、繰り返し話し合う機会を設ける
🔸 「家族に任せる」「先生に任せる」という方
- 「任せる」という言葉の背景を探る。遠慮・疲労・不安・文化的背景などさまざま
- 「決めなくていい。ただ、あなたが大切にしていることを教えてほしい」と伝える
- 小さな希望(「家のごはんが食べたい」「孫に会いたい」)から関係を作っていく
🔸 「縁起でもない」と話し合いを拒否する方・家族
- 無理に進めない。「今はそういう気持ちなんですね」と受け止める
- 「決める話ではなく、気持ちを聞かせてほしいというお願いです」と伝える
- 時間をおいて、別のタイミング・別の担当者が再度アプローチすることも有効
記録と多職種での共有
ACPの対話内容は記録に残し、関わる専門職が共有できる状態にすることが重要です。「話した」だけでは「もしもの時」に活かせません。
📝 記録に残すべき内容
- 話し合いを行った日時・場所・参加者(本人・家族・専門職)
- 本人が表明した価値観・大切にしていること
- 療養の場所・生活についての希望
- 医療処置(延命・胃ろう・気管切開・心肺蘇生等)についての意向(確認できた範囲で)
- 代理意思決定者として本人が指定した人物
- 「まだ決めたくない」「考え中」という場合もその旨を記録する
- 次回話し合いの予定・確認事項
💡 記録の共有先
病院内では電子カルテへの記録が基本です。在宅移行後は、退院時情報提供票・訪問看護指示書・ケアプランのサービス担当者会議の記録などを通じて、ケアマネ・訪問看護・ヘルパー等と共有します。施設入所の場合は施設側への申し送りに含めることが重要です。
DNARについて
DNAR(Do Not Attempt Resuscitation:蘇生処置の不実施)は、ACPの延長線上にある医療的な意思決定のひとつです。「DNARを確認する」こと自体がACPではありませんが、ACPの対話の中から自然に確認できる場合があります。
⚠️ DNARに関する注意点
- DNARの確認は、必ず担当医が主体となって行うもの。MSW・看護師が単独で確認することは適切でない
- 「DNARを書いてもらえばよい」という書類主義に陥らない。DNARがあっても苦痛緩和・ケアは全力で行う
- 家族だけに確認してサインをもらうことは適切でない。本人の意思確認が前提
- 意思は変わりうる。繰り返し確認することが重要
多職種でACPを支えるために
ACPは特定の職種が「担当する」ものではなく、関わるすべての専門職が役割を持ちます。
| 職種 | ACPにおける主な役割 |
|---|---|
| 担当医 | 病状・予後の説明、治療方針の共有、DNARの確認 |
| 退院支援NS・病棟NS | 日常的な関わりの中で価値観・生活の希望を引き出す。対話のきっかけをつくる |
| MSW | 生活・経済・家族関係を含めた広い視点での支援。家族間の調整 |
| ケアマネジャー | 在宅・施設での継続的な意向確認。サービス担当者会議での共有 |
| 訪問看護師 | 日常的な訪問の中での変化の把握。急変時対応方針の確認 |
| 保健師 | 地域での予防的・継続的な関わり。地域包括支援センターでの相談対応 |
✅ 実践チェックリスト
- 入院時に「退院後の療養場所の希望」と「代理意思決定者」を確認した
- 「決める話ではなく、価値観・希望を聞かせてほしい」と伝えて対話を始めた
- 治療の意向確認よりも先に「大切にしていること・生活の希望」を聞いた
- 話し合いの内容を記録し、日時・参加者・確認内容を残した
- 「まだ決めたくない」という意向も記録した
- 退院時に在宅チーム(ケアマネ・訪問看護等)へACPの内容を申し送った
- 状態変化や退院後に、改めて意向を確認する機会を設ける予定がある
📌 この記事のまとめ
- ACPは「延命治療の確認」ではなく「その人らしさを出発点にした継続的な対話」
- 「決めてください」ではなく「一緒に考える」姿勢で臨む
- 話し合いの内容は記録し・チームで共有することで初めて意味を持つ
- 困難なケース(認知症・家族の意見相違・拒否)は、急がず・焦らず・繰り返す
- DNARの確認は担当医が主体。専門職全員が役割を持ちながら支える