退院時情報提供票は、入院中に得られた情報を在宅支援者(ケアマネジャー・訪問看護師・ヘルパー・施設スタッフ等)に引き継ぐための重要な書類です。「受け取った支援者がすぐに動ける」情報を届けることが、この書類の本質的な役割です。退院後の安全な生活は、この情報提供の質にかかっていると言っても過言ではありません。
退院時情報提供票の書式は、地域・医療機関・受け取る先(在宅か施設か転院先か)によって異なります。各地域の書式・各施設の様式に沿って記載することが基本です。本記事では、書式を問わず共通して盛り込むべき内容と書き方の視点を解説します。
※ 算定要件・様式の詳細は改定のたびに変更されます。必ず最新の通知・医科点数表の解釈(最新版)をご確認ください。
なぜ「伝わる」情報提供が大切か
退院時情報提供票に情報が不足していると、在宅支援者は「何に気をつければいいかわからない」まま支援を始めることになります。その結果、退院直後のトラブル・症状悪化・再入院につながることがあります。
❌ 嚥下機能が低下していたのに食形態が伝わらず、誤嚥性肺炎を繰り返す
❌ 抗凝固薬を服用中と伝わらず、転倒後に出血リスクへの対処が遅れる
❌ 夜間のせん妄が伝わらず、家族が対応できずに救急要請になる
❌ 傷の処置方法が伝わらず、訪問看護師が初回訪問時に困惑する
❌ 本人の「帰りたくなかった」という気持ちが伝わらず、支援関係の構築が遅れる
書類を「形式的に埋める」のではなく、「この方の退院後を支える人たちに何を伝えるべきか」を考えながら書くことが大切です。
基本情報・入院経過
基本情報
- 氏名・生年月日・性別・住所・電話番号
- キーパーソン(続柄・連絡先)
- 主治医氏名・所属・連絡先
- 退院支援担当者(MSW・退院支援看護師)の連絡先
- 入院日・退院日・退院先
- 主病名・副病名(ICD-10コードがあれば)
- 既往歴(過去の主要な疾患・手術歴)
- アレルギー(薬・食物・その他)
入院経過の書き方
入院の原因・治療経過・現在の状態を時系列で簡潔にまとめます。専門用語の羅列ではなく、在宅支援者が読んで「なぜ今この状態なのか」がわかるよう書くことが大切です。
✏️ 「〇月〇日、自宅で転倒し右大腿骨頸部骨折にて救急搬送。〇月〇日に人工骨頭置換術を施行。術後リハビリを経て歩行器歩行が可能となり退院。術前と比べADLは低下しており、移動・移乗・入浴に一部介助が必要な状態。」
✅ いつ・何があって・どんな治療をして・今どうなっているか、の流れで書く
✅ 退院後に関係する情報(ADLの変化・治療の継続等)を特に丁寧に
ADL・生活状況(リハビリの視点)
ADL(日常生活動作)の情報は、在宅支援者が最も必要とする情報のひとつです。リハビリ職(PT・OT・ST)から得た情報を正確に引き継ぐことが重要です。
- 移動・歩行:歩行器・杖・車椅子の別、介助量(自立/見守り/一部介助/全介助)
- 移乗:ベッド⇔車椅子⇔トイレ等の移乗方法・介助量
- 食事:自立か介助か、食形態(後述)、摂取量
- 排泄:トイレ自立か・ポータブルトイレか・オムツか、失禁の有無、導尿・ストーマの有無
- 入浴・清潔:介助量、入浴方法(シャワー浴か浴槽入浴か)
- 更衣:自立か介助か、上下肢の更衣それぞれの状況
- 認知機能:認知症の有無・程度、HDS-R・MMSEのスコア(あれば)
- コミュニケーション:言語理解・発話の状況、失語・構音障害の有無
- 睡眠・夜間の様子:夜間の不穏・せん妄・夜間トイレの頻度
リハビリ職からの視点を引き継ぐ
🦵 転倒リスク:転倒リスクの程度・危険な場面(段差・暗所・浴室等)
🦵 動作上の注意点:人工股関節の脱臼肢位・骨折後の荷重制限・起き上がり方法 等
🦵 福祉用具・住環境:必要な福祉用具(手すり・歩行器・スロープ等)・家屋改修の提案
🦵 継続リハビリの必要性:通所リハビリ・訪問リハビリの必要性と目標
🦵 家族・支援者へのアドバイス:介助方法・立ち方・支え方のポイント(ヘルパーへの引き継ぎにも)
入院前と退院時でADLが変化している場合は、必ず両方を記載します。「入院前は自立していたが、退院時は一部介助が必要」という情報は、ケアプランの見直しに直結します。
医療処置・看護ケアの引き継ぎ
退院後も継続が必要な医療処置・看護ケアは、具体的・明確に記載します。「何を・どのように・どのくらいの頻度で行うか」を訪問看護師が初回訪問前から把握できるよう書きます。
- 創傷処置:部位・処置方法・使用物品・頻度・次回受診日
- 吸引:口腔内か気管内か・吸引の頻度・使用機器
- 酸素療法:在宅酸素(HOT)の流量(安静時・労作時・睡眠時)・業者連絡先
- 経管栄養:胃ろうか経鼻か・注入内容・注入方法・注入量・注入時間・使用物品
- 点滴・中心静脈栄養:内容・頻度・管理方法
- 導尿・尿管カテーテル:カテーテルの種類・交換頻度・注意点
- ストーマ:部位・装具の種類・交換方法・皮膚トラブルの有無
- インスリン注射:種類・単位・注射部位・自己注射の可否
- 褥瘡:部位・ステージ・処置内容・体位変換の頻度
訪問看護師は初回訪問時から処置を行います。使用物品・具体的な手順・次回外来の予定など、現場で必要な情報を具体的に記載しましょう。物品の在庫状況(退院時に何日分持たせたか)も書いておくと親切です。
薬・服薬管理
服薬情報は、在宅支援の安全を守るうえで最も重要な情報のひとつです。薬の効果・副作用・注意点を支援者が把握していることで、症状変化への早期対応が可能になります。
- 退院時の内服薬一覧(薬剤名・用量・用法・何のための薬か)
- 退院時の外用薬・貼付薬・点眼薬・吸入薬 等
- 服薬自己管理の可否(本人管理か家族管理かヘルパー支援か)
- お薬手帳の有無・かかりつけ薬局の情報
- 特に注意が必要な薬(下記参照)
- 入院中に変更・追加・中止になった薬(変更理由も)
- 次回処方・外来受診の予定
特に注意が必要な薬
💊 抗凝固薬・抗血小板薬(ワーファリン・バイアスピリン・エリキュース等)
→ 転倒・打撲時に出血が止まりにくい。転倒予防が特に重要。受診が必要な出血サインを伝える。
💊 インスリン・血糖降下薬
→ 低血糖症状(冷汗・震え・意識変容)の見分け方と対処法を伝える。
💊 利尿薬
→ 脱水・電解質異常のリスク。水分摂取量の確認が大切。
💊 睡眠薬・抗不安薬・抗精神病薬
→ 転倒リスク上昇。ふらつき・過鎮静に注意。夜間の見守りポイントを伝える。
💊 ステロイド薬
→ 感染リスク上昇・血糖変動・精神症状(不眠・興奮等)に注意。
💊 麻薬(オピオイド鎮痛薬)
→ 便秘・嘔気・眠気の副作用。急な中断は厳禁。残薬管理のルールを確認。
栄養・食事の引き継ぎ
食事に関する情報は、誤嚥・低栄養・病状悪化を防ぐために欠かせません。栄養士・言語聴覚士(ST)の評価を正確に引き継ぎます。
- 食形態:普通食・きざみ食・ソフト食・ミキサー食・ゼリー食 等(学会分類コードがあれば記載)
- とろみ:必要か不要か、とろみの濃度(薄いとろみ・中間・濃いとろみ)
- 嚥下状況:ST評価・VF(嚥下造影)結果の要点・誤嚥リスクの程度
- 食事制限:塩分制限(〇g/日)・カリウム制限・糖質制限・たんぱく質制限 等
- 必要カロリー・栄養補助食品:目標カロリー・使用中の栄養補助食品の種類
- 経管栄養:注入内容・方法・量・時間(医療処置欄と連動して記載)
- 体重の推移:入院時・退院時・目標体重
- 摂取量・食欲の状況:退院時の食事摂取量の目安
- 退院後の訪問栄養指導の必要性
訪問ヘルパーが食事を作る場合、食形態・調理上の注意(とろみのつけ方・食材の切り方等)を具体的に伝えることが大切です。「きざみ食」だけでなく「どのくらいの大きさに切るか」まで書けると、現場の混乱を防げます。
在宅での過ごし方・注意点
「退院後、どのように生活すればよいか」を在宅支援者が把握できるよう、具体的なアドバイスを記載します。主治医・リハビリ職・看護師の指示を反映した内容にします。
- 活動量・運動:どのくらい動いてよいか・禁止事項(重いものを持たない等)
- 入浴:入浴可否・湯温・入浴時間・注意点(創部を濡らさない等)
- 外出・社会参加:外出の可否・通院の方法・通所サービスの開始時期
- 転倒予防:特に注意が必要な場所・状況(起き上がり・夜間トイレ・浴室等)
- 感染予防:免疫低下がある場合の注意点・マスク・手洗い
- 水分摂取:1日の目標水分量・脱水に注意が必要な疾患・季節
- 定期受診:次回外来の日程・担当科・確認事項
症状悪化のサイン・受診の目安
在宅支援者・家族が「いつ受診・緊急連絡すべきか」を判断できるよう、疾患に応じた受診目安を記載します。
🫀 心不全:急激な体重増加(2〜3日で2kg以上)・足のむくみ増加・息切れの悪化 → 早めに受診
🫁 COPD・呼吸器疾患:安静時の呼吸困難・SpO2低下・痰の色の変化 → 訪問看護へ連絡・受診
🧠 脳卒中後:ろれつの乱れ・片側の脱力・急な頭痛・意識の変容 → 救急要請
🦴 骨折術後:手術した部位の強い痛み・腫れ・発熱・傷口の異常 → 受診
💉 糖尿病:強い倦怠感・意識の変容(低血糖または高血糖)→ 状況に応じ対処または救急
支援者が気をつける視点
医療情報だけでなく、支援者が関係構築や観察のうえで気をつけるべき「人としての情報」を記載することが、質の高い引き継ぎにつながります。
心理・精神面
😔 退院について本人がどう感じているか(「帰りたい」「不安がある」「施設は嫌だった」等)
😔 入院中の気分の変化・抑うつ症状・不眠・不安の有無
😔 病気・障害を受け入れているか(受容の段階)
😔 支援を受け入れやすいか・プライドが高く拒否しやすいか等の傾向
😔 精神科疾患がある場合:病状の安定度・服薬状況・デイケアとの関係 等
家族・介護力・介護負担
👨👩👧 主な介護者は誰か・介護力の程度(身体的・精神的・時間的余裕)
👨👩👧 介護者自身の健康状態・就労状況
👨👩👧 家族間の関係性・意見の一致度
👨👩👧 介護負担が高まっているサイン(疲弊・孤立・不眠等)に気をつけてほしい旨
👨👩👧 虐待リスク・ネグレクトリスクがある場合はその旨も(受け取る側と事前に情報共有)
再入院リスクの兆候
🔴 服薬を自己中断しやすい・薬の管理が難しい
🔴 独居で夜間の見守りがない
🔴 食事摂取量が少なく低栄養になりやすい
🔴 転倒リスクが高い
🔴 認知症の周辺症状(徘徊・拒薬・暴言)がある
🔴 外来受診を自己中断しやすい
🔴 社会的孤立・閉じこもりのリスクがある
本人・家族・生活環境の情報
- 住環境:一戸建て・集合住宅・エレベーターの有無・段差の状況・バリアフリー改修の有無
- 同居者・独居の別:誰と住んでいるか・近居の家族がいるか
- 介護保険:認定区分・担当ケアマネ氏名・事業所名・連絡先
- 障害福祉サービス:相談支援専門員氏名・事業所名・連絡先
- 現在利用中のサービス:訪問介護・訪問看護・通所サービス・福祉用具等
- 退院後に新たに導入するサービス:内容・開始予定日
- かかりつけ医・在宅医:氏名・医院名・連絡先
- 経済状況:生活保護受給の有無・経済的困窮があれば概略
- キーパーソン・後見人:成年後見人・日常生活自立支援事業の利用有無
緊急時の対応・連絡先
退院後に症状が悪化した際の対応フローと連絡先を明確に記載します。在宅支援者・家族が「まず誰に電話するか」を迷わないようにすることが大切です。
📞 まず連絡する先:在宅医(〇〇クリニック)/訪問看護ステーション(〇〇)
📞 時間外・夜間:訪問看護ステーションの夜間連絡先(〇〇)
📞 入院医療機関:〇〇病院 〇〇科 外来(緊急時は〇〇番)
📞 救急が必要な場面:意識がない・呼吸が止まっている・〇〇の症状 → 119番
※ 本人・家族と事前に「緊急時の対応」を確認し、ACP(人生会議)の内容(蘇生処置の希望等)とも整合させておくことが大切です。
情報提供票を書くうえでの全体的なポイント
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1
「受け取る人」を意識して書く ケアマネ向け・訪問看護師向け・施設向けでは、必要な情報の優先度が違います。受け取る人が「すぐ動ける」内容を心がけましょう。
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2
専門用語を嚙み砕く 医療職でない支援者も読みます。医療処置名や薬剤名は、「何のために行うか・何に気をつけるか」を添えると伝わりやすくなります。
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3
変化した点を明記する 入院前との比較(ADL・服薬・生活環境等)を明記することで、ケアプランの見直しや支援の組み立てに役立ちます。
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4
多職種の情報を集約して書く 医師・看護師・リハビリ職・栄養士・薬剤師の情報を一枚の書類に集約することで、受け取る側の負担が大幅に減ります。情報源を多職種に依頼して書く習慣をつけましょう。
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5
本人・家族の「気持ち」も伝える 「退院したくなかった」「自宅での生活に不安を感じている」「家族が疲弊している」といった情報は、支援関係の構築を左右します。医療情報だけでなく、人としての情報も大切にしましょう。
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6
退院前に関係者と内容を確認する 退院前カンファレンス等を活用して、情報提供票の内容を関係者と共有・確認することで、記載漏れや誤りを防げます。
※ 書式・様式は地域・医療機関によって異なります。本記事の内容は一般的な記載事項を示したものです。各地域の書式・最新の制度に沿って作成してください。