手術や入院をすると、1年間の医療費が10万円を超えることは珍しくありません。そんな年は「医療費控除」で税金の一部が戻ってくる場合があります。しかも、申告を忘れていた過去の入院分も5年以内なら遡って申告できるので、「もう遅い」ということはありません。この記事では、対象になる費用・ならない費用、保険金を受け取ったときの落とし穴、2026年のいちばん楽な申告のやり方まで、やさしく解説します。

医療費控除とは〜計算式と戻るお金のしくみ

医療費控除は、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が一定額を超えたときに、所得から差し引ける制度です。計算式は次のとおりです。

(その年に支払った医療費の総額 − 保険金などで補てんされる金額) − (10万円 または 総所得金額等の5% のいずれか少ない方) = 医療費控除額(最高200万円)
💡 知っておきたい3つのポイント

👨‍👩‍👧 家族の分も合算できます:本人だけでなく、生計を一(いつ)にする配偶者・親族の医療費をまとめて申告できます

💰 控除額がそのまま戻るわけではありません:医療費控除は「所得控除」なので、戻る所得税は「控除額 × あなたの所得税率」です。例えば控除額が20万円で所得税率10%の方なら、戻る所得税は約2万円。加えて翌年度の住民税も下がります

📉 10万円未満でも対象になる場合があります:総所得200万円未満の方は「所得の5%」が基準になるため、医療費が10万円に届かなくても控除できる場合があります

入院費用のうち、対象になるもの・ならないもの

入院にかかったお金のすべてが対象になるわけではありません。仕分けの目安は「治療のために必要だったか」です。

✅ 対象になるもの:

✅ 保険診療の自己負担分
✅ 入院時の食事代(標準負担額)
✅ 通院のための交通費(電車・バスなどの公共交通機関)※付き添いが必要な場合は、付添人の交通費も対象になる場合あり
✅ 医師の指示による差額ベッド代(治療上必要な場合)
✅ 薬局で買った治療目的の医薬品
❌ 対象にならないもの:

・自己都合の差額ベッド代(個室を希望した場合など)
・テレビ・冷蔵庫のカード代、日用品
・診断書などの文書料
・自家用車のガソリン代・駐車場代
・タクシー代(電車・バスで移動できる場合)※緊急時や歩行困難な場合は対象になり得ます
・美容目的・健康増進目的(サプリメント等)の費用

入院費用そのものの仕組み(高額療養費制度など)は、入院費用と高額療養費制度の記事で詳しく解説しています。

保険金・高額療養費を受け取った場合【最重要】

高額療養費、生命保険の入院給付金・手術給付金、出産育児一時金などを受け取った場合は、「補てんされる金額」として医療費から差し引きます。ここに、知らないと数万円損する落とし穴があります。

⚠️ 差し引くのは「その給付の目的となった医療費から」だけ

保険金は、医療費全体から引くのではありません。その保険金の対象になった医療費からだけ引きます。

例:入院Aで給付金15万円を受け取り、入院Aの医療費が10万円だった場合
→ 差し引くのは10万円まで
→ 余った5万円を、他の医療費(別の通院Bなど)から引く必要はありません

このルールを知らずに医療費全体から引いてしまい、還付額を数万円損する方が実際に多くいます。マイナポータル連携の自動入力でも、補てん金は自分で入力する部分なので、注意してください。

申告のやり方(2026年版)

💡 まず知っておきたい基本

・医療費控除は年末調整では受けられません。会社員でも確定申告が必要です
・領収書の提出は不要。ただし自宅で5年間の保管が義務です
・還付申告は翌年1月1日から5年間提出できます。確定申告期間(例:令和7年分は2026年2月16日〜3月16日)を待つ必要はありません
  • 1
    領収書・医療費通知を準備する 病院・薬局の領収書は捨てずに保管。健康保険から届く「医療費のお知らせ(医療費通知)」があると、明細書の記載を簡略化できます。
  • 2
    マイナポータル連携で自動入力(2026年の申告の目玉) e-Taxとマイナポータルを連携すると、医療費通知情報が確定申告書に自動入力され、手入力が大幅に減ります。確定申告用の1年分の医療費通知情報は、原則2月9日に一括取得できるようになります。家族分は事前に「代理人設定」をしておけば一括取得できます。※マイナポータル単体では申告できません。申告はe-Tax(確定申告書等作成コーナー等)で行います。
  • 3
    連携で取得できない分は手入力する はり・きゅうの施術費用、整骨院・接骨院の柔道整復療養費、自由診療分、市販薬(ドラッグストアで買った薬)、通院のための交通費は自動入力されないため、自分で入力します。
  • 4
    「医療費控除の明細書」を作成して申告する 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」なら、画面の案内に沿って入力するだけで明細書と申告書が完成します。提出後、領収書は自宅で5年間保管しておきましょう。
💡
過去の入院分も諦めないで。申告を忘れていた年の分も、5年以内なら遡って還付申告できます。「数年前に大きな手術をしたのに申告していなかった」という方は、当時の領収書や医療費通知を探してみてください。

パソコンやスマホでの申告が不安な方へ〜相談できる場所

🏢 困ったときの相談先(いずれも無料):

🏛️ 税務署:申告書の書き方の相談ができます。確定申告の時期(2月〜3月)には申告相談の会場が設けられ、職員に教わりながらその場で申告できます(時期により事前予約が必要な場合があります)。電話相談も可能です

🏘️ 市区町村の税務課(住民税担当):確定申告の時期に申告相談を受け付けている自治体が多くあります。お住まいの役所に確認してみてください

💡 領収書と医療費通知、マイナンバーカード(または通知カード+本人確認書類)、振込先の口座がわかるものを持っていくとスムーズです

セルフメディケーション税制との違い

医療費控除には「セルフメディケーション税制」という特例もあります。対象の市販薬の年間購入額が12,000円を超えた分(上限88,000円)を所得控除できる制度で、健診・予防接種など「一定の取組」を行っていることが要件です。

どちらを選ぶ?

⚖️ 通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません(どちらか選択。申告後の変更もできません)

🏥 入院・手術をした年は、医療費が10万円を超えることが多いため、通常の医療費控除の方が有利なケースが大半です

💊 通院も入院もほとんどなかったけれど市販薬をよく買った、という年はセルフメディケーション税制を検討しましょう
📢 「2026年12月末で終了」という古い情報に注意。セルフメディケーション税制は令和8年度税制改正で、スイッチOTC医薬品の適用期限が撤廃(恒久化)され、それ以外の対象医薬品は5年延長されました。対象には非スイッチOTC医薬品の消化器官用薬、生薬のみからなる鎮咳去痰薬、OTC検査薬、薬局製造販売医薬品が追加される見直しも行われており、制度は継続します

よくある質問

年末調整で医療費控除はできますか?
できません。医療費控除は年末調整の対象外なので、会社員でも確定申告(還付申告)が必要です。e-Taxを使えば自宅から手続きできます。
領収書をなくしてしまいました。
健康保険の「医療費通知」やマイナポータルの医療費通知情報で支払額を確認できる場合があります。それでも足りない分は、病院に再発行や支払証明について相談してみてください。
家族の分もまとめられますか?
生計を一にしている配偶者・親族の分は合算できます。所得の高い人がまとめて申告すると有利になる場合が多いです(税率が高いほど戻る額が大きくなるため)。
入院給付金をもらったら申告できませんか?
差し引いても残りがあれば申告できます。差し引くのはその給付の目的となった医療費からだけで、他の医療費から引く必要はありません(本文の「最重要」セクション参照)。給付金が多くても諦めずに計算してみてください。
何年前の分まで遡れますか?
5年です。還付申告は対象の年の翌年1月1日から5年間提出できます。

まとめ・公式情報

この記事のまとめ:

✅ 入院・手術で医療費が10万円超(所得200万円未満の方は所得の5%超)なら医療費控除のチャンス
✅ 家族の分も合算OK。所得の高い人がまとめて申告すると有利な場合が多い
✅ 保険金・高額療養費は「その医療費からだけ」差し引く(全体から引かない)
✅ 2026年はマイナポータル連携で自動入力が楽に(1年分は原則2月9日から取得可)
✅ 交通費・市販薬・はりきゅう等は手入力が必要
✅ 還付申告は1月1日から、過去5年分まで遡れる
✅ 自分での申告が不安なら、税務署や市区町村の税務課の申告相談(無料)を利用できる
📎 参考資料・公式情報
⚖️ 根拠法令
  • 医療費控除:所得税法第73条
  • 医療費の範囲:所得税法施行令第207条
  • セルフメディケーション税制(医療費控除の特例):租税特別措置法
  • 高額療養費:健康保険法第115条、国民健康保険法第57条の2、高齢者の医療の確保に関する法律第84条

※本記事は2026年7月時点の一般的な情報をまとめたものです。税制は変更される場合があります。個別の申告については税務署または税理士にご確認ください。