退職すると、勤め先の健康保険はその翌日になくなります。自動で何かに切り替わるわけではありません。自分で選んで、自分で手続きをします。しかもどちらにも期限があります。入院中や療養中に退職を考えている方に向けて、3つの選択肢と、決め方をまとめます。

退職すると、健康保険は自動では続きません

退職日の翌日に、勤め先の健康保険の資格はなくなります。保険証(資格確認書)は返却します。その日から、別の保険に入るまでは「無保険」の状態になります。

⚠️ 手続きが遅れても、さかのぼって加入します。空白期間がなかったことになるわけではなく、その間の保険料はさかのぼって納めることになります。そして手続き前に受診すると、いったん医療費を全額自分で払うことになります(あとで手続きをすれば払い戻される場合があります)。治療を続けている方ほど、先延ばしは損です。
20日以内
任意継続を選ぶ場合
資格喪失日(退職日の翌日)から
14日以内
国民健康保険に入る場合
退職日の翌日から、市区町村へ

とくに任意継続の20日は短く、過ぎると原則として選べなくなります。退職を決めたら、まずこの期限を意識してください。

選択肢は3つ

OPTION 1

任意継続

それまでの健康保険を、退職後も続ける方法です。最長2年間。保険証の発行元は変わりません。付加給付がある健康保険組合なら、それも続きます。

期限:資格喪失日から20日以内
窓口:加入していた健康保険
OPTION 2

国民健康保険

お住まいの市区町村の保険に入ります。誰でも入れます(他の保険に入らない場合の受け皿です)。保険料は前年の所得などで決まります。

期限:退職日の翌日から14日以内
窓口:市区町村の国保担当課
OPTION 3

ご家族の扶養に入る

配偶者やお子さんが会社員・公務員なら、その健康保険の被扶養者になれる場合があります。保険料はかかりません。収入の条件があります。

期限:家族の勤め先の定めによる(早めに)
窓口:ご家族の勤め先
💡
まず③(扶養)から検討してください。条件を満たせば保険料がかかりません。この選択肢を知らないまま国民健康保険に入り、あとで保険料の通知を見て驚く方がいます。ご家族に会社員・公務員がいるなら、真っ先に確認する価値があります。

【比較表】どこが違うか

  任意継続 国民健康保険 家族の扶養
保険料 全額自己負担(在職中のおよそ2倍) 前年の所得などで決まる かからない
手続きの期限 20日以内 14日以内 勤め先の定めによる
窓口 加入していた健康保険 市区町村 家族の勤め先
入れる条件 退職前に継続2か月以上の被保険者期間があること 条件なし(誰でも入れる) 収入の条件あり(下記)
使える期間 最長2年 制限なし 条件を満たす間
付加給付 あった保険なら続く なし 家族の保険による
扶養家族 そのまま入れられる 「扶養」の考え方がなく、人数分の保険料がかかる 本人のみ(家族はそれぞれ判断)

※ 任意継続の加入条件・保険料の計算は、加入先によって細かい違いがあります。必ず加入先にご確認ください。

👨‍👩‍👧 見落とされやすいのが、いちばん下の行です。国民健康保険には「扶養」という考え方がありません。ご家族の人数分だけ保険料がかかります。配偶者やお子さんを扶養に入れていた方は、ここで金額が大きく変わることがあります。任意継続なら、そのまま入れておけます。

保険料は、どう比べるか

「どちらが安いか」は人によって違います。比べる以外に方法はありません。幸い、どちらも退職前に教えてもらえます。

1
任意継続の保険料を聞く
加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・共済組合)に問い合わせます。在職中の給与明細の健康保険料のおよそ2倍が目安です(会社が負担していた分も自分で払うため)。ただし上限があるので、給与が高かった方は2倍にならないこともあります。
2
国民健康保険の保険料を聞く
市区町村の国保担当課で試算してもらえます。「退職予定なのですが、保険料はいくらになりますか」と聞いてください。前年の収入がわかるもの(源泉徴収票など)があるとスムーズです。
3
扶養に入れるか確認する
ご家族の勤め先に確認します。入れるなら保険料はかかりません。
4
2年分で考える
任意継続は最長2年。国民健康保険の保険料は前年の所得で決まるので、退職の翌年は下がることが多くあります。「1年目は任意継続、2年目は国保」という選び方もあります。
💡
国民健康保険には、保険料が軽くなる仕組みがあります。所得が低い世帯の軽減のほか、会社都合の退職など特定の理由で離職した方には保険料を軽減する制度があります(市区町村によって呼び名や運用が異なります)。「退職したので保険料の軽減が使えませんか」と、必ず窓口で聞いてください。黙っていると適用されないことがあります。

傷病手当金は、どうなるか

療養中の方にとって、ここがいちばん大事なところです。

⚠️ 任意継続に入ってから始まった病気やけがでは、傷病手当金は受け取れません。「任意継続なら傷病手当金も続く」と思われがちですが、そうではありません。
✅ ただし、逆の場合があります

在職中から続いている病気なら、退職後も引き続き傷病手当金を受け取れることがあります。「資格喪失後の継続給付」といいます。おおよその条件は次のとおりです。

・退職日までに、被保険者期間が継続して1年以上ある
・退職日までに連続3日以上休んでいて、退職日も休んでいる
・同じ病気で、退職後も働けない状態が続いている
・雇用保険(失業給付)を受けていない

この給付は、任意継続でも国民健康保険でも扶養でも受けられます。退職後にどの保険に入るかとは別の話だからです。
⚠️ 退職日に出勤してしまうと、受けられなくなることがあります。「最後のあいさつに」と出社した日が退職日だと、条件を満たさなくなる場合があります。退職日を決める前に、必ず加入先か病院の相談窓口に確認してください。知らずに一日出たために受けられなくなった、という例があります。
💬 現場から:「退職したら、もう傷病手当金は出ませんよね」。相談の場でよく聞く言葉です。でも実際には、条件を満たしていて受けられる方がいます。逆に、退職日の決め方ひとつで受けられなくなることもあります。辞めると決めた「あと」ではなく、「前」にご相談ください。

失業給付との関係

雇用保険の失業給付(基本手当)は、「働ける状態で、仕事を探している人」に支給されるものです。一方、傷病手当金は「病気で働けない人」のための給付です。前提が反対なので、同時には受け取れません。

📅 病気で働けない間は、失業給付の「受給期間の延長」ができます。本来は退職から1年以内に受け取る決まりですが、病気などで働けない期間があるときは、その分だけ後ろにずらせます。治ってから失業給付を受ける、という順番にできるということです。手続きの期限があるので、ハローワークに早めに相談してください。

よくある質問

任意継続の20日を過ぎてしまいました
原則として任意継続は選べなくなります。市区町村の国民健康保険か、ご家族の扶養で検討してください。国民健康保険はいつでも加入できます(ただし保険料はさかのぼってかかります)。まずは市区町村の窓口へ。
任意継続の途中で、国民健康保険に切り替えられますか
以前は原則としてできませんでしたが、令和4年(2022年)1月から、本人の申し出による脱退ができるようになりました。「1年目は任意継続、2年目は保険料の安い国保へ」という選び方もできます。手続きの時期や扱いは加入先によりますので、必ず確認してください。
扶養に入れる収入の条件は?
おおむね年収130万円未満(60歳以上の方、障害年金を受けられる程度の障害がある方は180万円未満)で、かつ被保険者(家族)の年収の半分未満であることが目安です(別居の場合は、仕送り額より少ないこと)。ここでいう収入には、年金・傷病手当金・失業給付も含まれます。判断は加入先が行いますので、ご家族の勤め先を通じて確認してください。
傷病手当金を受けながら、扶養に入れますか
傷病手当金は収入として数えられるため、金額によっては扶養に入れないことがあります(日額で判定されることが多く、目安は日額3,612円以上だと扶養から外れる、という扱いが一般的です)。加入先によって判断が異なるので、必ず確認してください。
入院中ですが、手続きに行けません
任意継続は郵送や電子申請でできます。国民健康保険も、多くの市区町村で郵送や代理人による手続きができます。ご家族に頼む、病院の相談窓口に相談するなど、方法はあります。期限のほうが待ってくれないので、動けないときこそ早めに相談してください。
75歳になったらどうなりますか
75歳の誕生日に、自動的に後期高齢者医療制度に移ります。任意継続も国民健康保険も、そこで終わります。手続きは原則として不要です。

まとめ・相談先

この記事のまとめ:

✅ 退職すると健康保険は翌日になくなります。自分で選んで手続きします
✅ 選択肢は任意継続(20日以内)・国民健康保険(14日以内)・家族の扶養の3つ
✅ まず「扶養に入れないか」から検討を。入れれば保険料はかかりません
✅ 保険料は人によって違うので、両方に聞いて比べる。国保には軽減の仕組みがあり、自分から聞く必要があります
✅ 国民健康保険には「扶養」がなく、家族の人数分の保険料がかかります
✅ 在職中から続いている病気なら、退職後も傷病手当金を受け取れることがあります。退職日の決め方で結果が変わることもあるので、辞める前に確認を

辞めると決める前に、一度ご相談ください。
🏥 病院の相談窓口・地域連携室:入院中の方はこちらへ。医療ソーシャルワーカー(MSW)が配置されている病院では、傷病手当金の申請や退職後の保険の選び方について相談できます
☎️ 加入している健康保険:任意継続の保険料、傷病手当金の継続給付について
🏛 市区町村の国保担当課:国民健康保険の保険料の試算、軽減の制度について
💼 ご家族の勤め先:扶養に入れるかどうか
🔎 ハローワーク:失業給付の受給期間の延長について
📎 参照・根拠
  • 全国健康保険協会「任意継続被保険者資格取得申出書」「任意継続の加入手続きについて」「任意継続被保険者の保険給付」
  • 健康保険法(任意継続被保険者・傷病手当金・資格喪失後の継続給付)
  • 国民健康保険法第58条第2項(傷病手当金は任意給付)/国民健康保険の届出は14日以内
  • 厚生労働省「収入がある者についての被扶養者の認定について」(昭和52年4月6日 保発第9号ほか)

※本記事は2026年9月時点の一般的な情報です。保険料の計算方法、任意継続の加入条件、扶養の認定、国民健康保険料の軽減制度は、加入先や市区町村によって異なります。実際の手続きにあたっては、必ず加入先・市区町村にご確認ください。