「退院したあと、一人で通帳や支払いを管理できるだろうか」「介護保険の手続きの書類が届いても、自分では分からない」。退院に向けた相談の中で、こうした不安を聞くことがあります。
物忘れが出てきた、判断に自信がなくなってきた。でも成年後見制度を使うほどではない。そのあいだを支えるのが「日常生活自立支援事業」です。社会福祉協議会が窓口となり、福祉サービスの手続きや日常的なお金の管理を手伝ってくれます。この記事では、対象となる方、支援の内容、成年後見制度との違い、相談先を紹介します。
日常生活自立支援事業とは
日常生活自立支援事業は、認知症の高齢者・知的障害のある方・精神障害のある方などで、判断能力が十分でない方が、地域で自立した生活を送れるように支援する制度です。ご本人と社会福祉協議会が契約を結び、福祉サービスの利用手続きや日常的なお金の管理を手伝ってもらいます。
実施主体は都道府県・指定都市の社会福祉協議会で、実際の窓口はお住まいの市区町村の社会福祉協議会です。
対象となる方
対象になるには、2つの条件を両方とも満たす必要があります。ここがこの制度のいちばん大切なポイントです。
✅ ②この事業の契約内容について、判断できる能力があると認められる方:「社協にこういうことを手伝ってもらう」という契約の意味を理解できること
つまりこの制度は、「判断に不安が出てきた、でもまだご自分で決められる」という時期に使える制度です。迷ったら早めに相談することが、選択肢を残すことにつながります。
支援してもらえる3つのこと
どの福祉サービスを使うかの相談、利用の申し込みや契約の手続きのお手伝い、届いた書類の説明、サービスに苦情があるときの手続きの援助など。行政の手続きについての援助も含まれます。
💰 ②日常的な金銭管理サービス
年金や福祉手当の受け取りの確認、公共料金・医療費・家賃などの支払い手続き、生活費に必要なお金の払い戻しなど、日々の暮らしのお金の管理を手伝ってもらえます。
🔐 ③書類等の預かりサービス
年金証書、預貯金の通帳、権利証、保険証書、実印・銀行印などを、社協が預かって保管します。「大事な書類をなくしてしまう」「置き場所が分からなくなる」という心配に対応するものです。
成年後見制度とのちがい
よく混同されますが、この2つは対象になる時期も、できることの範囲も違います。
| 日常生活自立支援事業 | 成年後見制度 | |
|---|---|---|
| どんな方が対象 | 判断能力に不安はあるが、契約の内容は理解できる方 | 判断能力が不十分、またはほとんど失われている方 |
| だれが支援する | 社会福祉協議会(専門員・生活支援員) | 家庭裁判所が選任した後見人等(親族・弁護士・司法書士・社会福祉士など) |
| 手続き | ご本人と社協との契約 | 家庭裁判所への申立て |
| できること | 福祉サービスの利用援助、日常的な金銭管理、書類の預かり | 財産管理全般、契約の取消し、不動産の処分、施設入所契約など幅広い法律行為 |
| 費用 | 訪問1回あたり平均1,200円程度(相談・計画作成は無料) | 申立費用のほか、後見人等への報酬(家庭裁判所が決定) |
利用料
💴 契約後の援助:有料(訪問1回あたりの平均は約1,200円。金額は実施主体によって異なります)
💴 生活保護を受けている世帯:無料
💴 書類等の預かりサービスは、別に料金が設定されている場合があります
「相談だけなら無料」なので、使うかどうか迷っている段階で問い合わせて構いません。
利用までの流れ
ご本人・ご家族のほか、ケアマネジャーや病院の相談窓口からつないでもらうこともできます。
どんなことに困っているか、どんな支援があれば暮らしやすいかを聞き取ります。あわせて、この事業の対象になるかを確認します。
「月に何回訪問し、何を手伝うか」をご本人と一緒に決めます。
契約できる状態かどうかの確認を経て、ご本人と社協が契約します。ここまでに一定の期間がかかります。
生活支援員が定期的に訪問し、支援計画にそって手伝います。状況が変われば計画を見直します。
利用するときの注意点
・「日常的な」お金の管理が対象です:不動産の売買や、まとまった財産の処分・運用は対象外です。そうした必要があるときは成年後見制度になります
・ご本人の契約が必要です:ご家族の判断だけで始めることはできません。ご本人が「お願いしたい」と思えることが出発点です
・申し込みから開始まで時間がかかります:訪問・計画作成・契約という手順を踏むため、すぐには始まりません。退院日が決まってから動くのでは間に合わないことがあります
・有料です:訪問1回あたり平均1,200円程度の負担があります(生活保護受給世帯は無料)
・運用は地域によって違います:名称・料金・対応できる範囲は実施主体で異なるため、お住まいの社協で確認してください
入退院支援で活用する場面
病院の相談の中では、例えば次のような場面でこの制度が候補になります。
✅ 物忘れが出てきて、介護保険やサービスの手続きが一人では難しい
✅ 年金は入っているのに、公共料金や家賃の支払いが滞ってしまっている
✅ 大事な書類や通帳をなくしてしまうことが増えている
✅ 成年後見制度を考えているが、今の状態ではそこまで必要ないかもしれない
注意したいのはタイミングです。この制度はご本人との契約が前提なので、判断能力が落ちてからでは使えません。「まだ大丈夫」と見送っているうちに、成年後見制度しか選べなくなることがあります。迷った時点で社協に相談しておくと、選択肢を残せます。
相談先
🏢 地域包括支援センター:高齢の方の場合、ここからつないでもらうこともできます
👤 ケアマネジャー:在宅で介護保険を使っている方は、担当のケアマネジャーへ
🏥 病院の相談窓口・地域連携室:入院中の方はこちらへ。医療ソーシャルワーカー(MSW)が配置されている病院では、制度の利用や関係機関との調整について相談できます
まとめ
✅ 日常生活自立支援事業は、判断能力に不安のある方の「福祉サービスの手続き」「日常的なお金の管理」「書類の預かり」を社会福祉協議会が支援する制度
✅ 対象は「判断能力が十分でない方」かつ「契約の内容を理解できる方」。この2つを両方満たすことが必要
✅ 成年後見制度の前の段階にあたる制度。判断能力が低下したら成年後見制度へ移る
✅ 相談と計画作成は無料。契約後の援助は訪問1回あたり平均1,200円程度(生活保護受給世帯は無料)
✅ 契約までに時間がかかるため、「まだ大丈夫」と思ううちに相談しておくことが選択肢を残すコツ
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/chiiki-fukusi-yougo/index.html - 全国社会福祉協議会
https://www.shakyo.or.jp/
根拠法令:社会福祉法第2条第3項第12号「福祉サービス利用援助事業」(第二種社会福祉事業)。運用は厚生労働省通知「日常生活自立支援事業の実施について」(平成19年5月15日 社援地発第0515001号)等に基づきます。
※本記事は2026年7月時点の情報です。事業の名称・利用料・対応範囲は実施主体(都道府県・指定都市社会福祉協議会)によって異なります。実際の利用にあたっては、お住まいの市区町村の社会福祉協議会にご確認ください。